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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1670号 判決

原告

山口廣美

ほか一名

被告

エーコー株式会社

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告山口廣美に対し、金三二九万〇八二九円及びこれに対する平成四年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告山口美紀子に対し、金一〇五三万六一二一円及びこれに対する平成四年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負つた原告らが、被告に対し、民法七一五条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生(甲第一号証、第八号証、第二一、第二二号証、第二四号証により認められる。)

(一) 発生日時 平成四年一月一七日午前六時ころ

(二) 発生場所 神戸市西区持子二丁目一三番地先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 事故態様 原告山口美紀子は、普通乗用自動車(神戸五三ふ四四七三。以下「原告車両」という。)を運転し、本件交差点を北から西に向かつて右折するために、本件交差点内に原告車両を停止させていた。

他方、訴外田名部祥司(以下「訴外田名部」という。)は、普通乗用自動車(神戸五八と五三三〇。以下「訴外車両」という。)を運転し、原告車両に遅れて、本件交差点を北から南に直進しようとしていた。

そして、訴外車両の前面右部が、原告車両の後面左部に追突した。

なお、原告山口廣美は、原告車両に同乗していた。

2  訴外田名部の過失

本件事故に関し、訴外田名部には、前方不注視の過失がある(甲第八号証、第二四号証により認められる。)。

3  訴外田名部と被告との雇用関係

本件事故当時、被告と訴外田名部との間には雇用関係があり、本件事故は、訴外田名部の通勤途上に発生したものである(当事者間に争いがない。)。

三  争点

本件の主要な争点は、被告に民法七一五条所定の使用者責任があるか否かである。

なお、被告は、原告らの主張する損害額についても全面的に争い、さらに、仮に被告に責任があるとしても、時効により消滅した旨主張する。

四  争点に関する当事者の主張

1  原告

訴外田名部は、訴外車両を被告の同意のもとに、通勤及び業務に使用していた。

したがつて、訴外車両の運行は、被告の業務の執行につきなされたものというべきである。

なお、原告山口廣美の損害は別表1記載のとおり、原告山口美紀子の損害は別表2記載のとおりである。

2  被告

被告は、訴外田名部が通勤のために訴外車両を使用することに同意を与えたことはない。

したがつて、訴外車両の運行は、被告の業務の執行につきなされたものではない。

第三争点に対する判断

一  甲第二四号証、被告代表者本人尋問の結果によると、訴外田名部は、平成四年一月五日から同月末日まで被告に在籍していたこと、被告は、訴外田名部に対し、電車通勤に見合う通勤手当を支給していたこと、被告は、社員に自動車通勤を認めていなかつたこと、本件事故の発生した当日には、訴外田名部は、いつもよりも早く、午前八時までに出社し、その後、同僚とともに被告のワゴン車で奈良方面に向かう予定になつていたことが認められる。

二  ところで、民法七一五条一項所定の責任が発生するためには、被用者が、使用者の事業の執行につき、第三者に損害を与えたことを要する。そして、「事業の執行につき」というときには、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するとみられる場合をも包含するものと解すべきである。

また、被用者の自家用車による通勤においては、右自動車は被用者の私生活上の所産であり、通勤途上は、被用者は未だ業務を遂行しているわけではなく、したがつて、被用者の行為は使用者の拘束を離れた自由な行動の場におけるものであるから、被用者が自家用車による通勤途上に交通事故を起こした場合には、使用者がその自動車の使用を命令、助長するなど、自家用車による通勤と使用者の業務との間に強い関連性が認められる特段の事情のない限り、その運転行為が当然に事業の執行になるとはいえないというべきである。

三  そして、一で認定した事実によると、訴外田名部の自家用車による通勤と使用者である被告の業務との間に強い関連性が認められるような特段の事情はまつたくうかがえない。

なお、甲第二四号証の中には、被告が自家用車による通勤を了承していた旨の部分があるが、一で認定した事実によると、仮に、本件事故当日、訴外田名部の自家用車による通勤を被告が了承していたとしても、たかだかこれを黙認していたという程度にとどまるから、このことによつて、訴外田名部による自家用車による通勤と使用者である被告の業務との間に強い関連性を認める特段の事情があるとまでは到底いいえない。

第四結論

よつて、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表1(原告山口廣美)

別表2(原告山口美紀子)

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